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掲載第五篇は「死んでるおれは誰だろう」、(原題は The Death of Me)です。
寒さ近づくニューヨークの秋、ある朝、カートは靴の詰め物にしていた新聞の記事にびっくりします。自分が死んだという記事を目にしたからです。死んだのは誰か、殺した奴は?カートはニューヨーク駆け巡ります。
「両眼に殺意をこめて、ピストルをむけられたら、返事はひとつしか、ありはしない。ほかに返事のしようはないのだ。なぜなら、命はひとが最後まですがりついて行くものだから。たとえ、おれの命みたいなものであっても。おれは三二口径の銃口を見つめながら、…」
「There's only one answer when a man is holding a gun on you and there's kill-light in his eyes. It's always the same answer because life is something to cling to, even when it's a life like mine. I looked at the bore of the .32 and …」
生きている価値があるかどうかわからない自分でも、やっぱり命は大切にと思うところがカートキャノンの生き方であり魅力でもあります。
「光の夏は死んだのだ。公園のベンチには、はや冬が冷たい。夏は死に、秋が紅く染まった厚いナイフの刃をふるっている」
「Summer was dead, and a park bench is a cold thing in the winter. Summer was dead and autumn had used a thick knife stained with red.」
秋をナイフに、紅葉を刃についた血の色にたとえられるような今回の事件です。
「三番アヴェニューまで歩いて、ポテト・チップとライ・ウイスキイで、遅い晩めしをとった。壁の大時計が、八時十五分を告げるまで、おれはバーのテレビで、古ものの西部劇を見て、時間つぶしをした」
「I walked over to the Third Avenue and had a late supper of potato chips and rye. I hung around, watching an old Western on the bar's TV, until the big clock on the wall told me it was eight-fifteen.」
ニューヨークへ単身赴任した人ならこんな情景をを思い出すことでしょう。
掲載第三篇「フレディはそこにいた」、(原題は Now Die in It)です。
一泊25セントのバウアリの安宿、カートは、ある朝、ブロンクスからの知人にたたき起こされます。
義理の妹が妊娠したが、相手がわからないので調べてほしいといいます。1953年のニューヨーク、25セントの価値はどれくらいだったのでしょうか。日本では昭和28年、1ドル360円の時代のことです。
義理の妹の交友関係の聞き込み開始、カートはある女性を訪ねます。
「彼女はバーク・アベニューを、華やかなブロードウェイに化えてしまいそうな女だった。なるほど、これでは、近所が口うるさいだろう」
「She was Broadway on Burke Avenue, with all the glitter and all the tinsel――and I guess maybe the neighbors did talk a little about her.」
“with all the glitter and all the tinsel”は“ピカピカ、きらきら光るもの”。
“バーク・アベニューでも彼女はブロードウェイであった”を“華やかなブロードウェイに化えてしまいそうな女”としています。
バーク・アベニューはブロンクス公園の東北ですが、どんな地域なのか興味があります。
バーク・アベニュー駅近くで犯人を絞り込んだカート。春の夕暮れどきの描写です。
「燃えるような赤や、緑や、オレンジや、ブルーのネオンのきらめきが、闇にイブニングドレスの材料をあたえていた。暖かいそよ風が、まだ吹いていた」
「The neon flickers stabbed the darkness with the lurid reds and greens, orenges. blues, giving spring her evening clothes, There was still a warm breeze in the air,…」
“The neon flickers stabbed the darkness”は“ネオンが闇をちらついた閃光で刺し、春に色とりどりのイブニングドレスを与えている”という意味を都筑氏はこのような文章にしています。
ハードボイルドらしく、“stab”が使われています。
カートは犯人に目星をつけ、待ち伏せをします。その時の街の表情です。
「かれこれ午前一時半だ。街路には人影ひとつなかった。春は冷たい霧の中に退却してしまった。その霧は街頭の下で、なかなか捕まらない幽霊みたいに渦巻き、その光を曇らしていた」 「It was close to one-thirty in the morning, and the streets were deserted. Spring had retreated into a cold fog that clouded the lights from the lampposts and swirled underfoot like elusive ghosts.」 “be deserted”は“人っ子だれもいない”砂漠のような感じがよく伝わります。 犯人は思いも寄らぬ人物でした。人の良いカートは犯人の頼みを聞き入れ、あることをする羽目になってしまったところでこの物語は終わっています。